大局観とは、文字通り大局に立って考えることで、ある局面を見たとき、今の状況はどうか、どうするべきかを判断します。「攻めるべきか」「守るべきか」「様子を見るため手を渡したほうが良いか」など、方針を決めるための判断基準になるものです。大局観は多くの経験から培われるもので、自分以外の人間の過去のケースをたくさん見ることでも磨かれていきます。この基準がしっかりしていれば未知の場面にも対応できるようになります。また、「読み」を省略できるので、判断が速くなります。
中原誠十六世名人の言葉
「私たちプロの場合には、技術の差は、ほとんどないといってよい。何がちがうのか、といえば、結局、局面の見方の『差』です。優勢とみて自重したため敗れることもあれば、勝局を攻め込んだあげく負けるときもある。非勢を意識したとき、じっと忍耐しているのか、ジリ貧とみて勝負にでるのか・・・そのあたりの見極めの『差』が勝敗を分けるのです。」
「大局観ということでいえば・・・私の場合、手の強情を通す,頑固に自分の判断やヨミを通すときのほうが、さらさらと流れるように指すときよりも、局面判断が正確ですね。激しいところがでたときのほうが、大局観にまさる、という意味があります」
「きわどいところを踏み込んで行くという精神が大切のようです。他人が危険だと思っていても、自分がしっかりヨンでいるかぎり、危なくないですから・・・どんな局面でも恐れないという精神のあり方、これが私たちプロの場合には大きな意味を持ってくるようです」
「だから、人生観とか、日常の生活のあり方とか、ありのままの自分をみつめる勇気とか、が実は大切なのでしょう」
「大局観を養成するには、プロの棋譜を繰り返し並べることです。一手ごとに、どちらが優勢なのか、局面のどこがポイントなのかを考え、自分の判断を加えながら指し手を並べていく。くり返しているうちに、プロの「盤上判断」が、感覚として身につきます。手筋を覚えるために一局を並べるのと、大局観を身につけるために並べるのでは、身につくものがちがいますね」
羽生善治・大局観の特徴
1)直感と同じくロジカルな積み重ねの中から育ってくるもの、わかってくるもの。ただし、その因果関係は直感と違って証明しづらい。
2)たくさんのケースに出会い、多くの状況を経験していく中で、だんだん培われてくるもの
3)自分がやっていなくても、他の人が過去にやったケースをたくさん見ていくことでも、磨かれていくもの
4)その人の本質的な性格、考え方が非常によく反映されるもの
原田泰夫
私は、将棋バカ、将棋の世界のことしかわからない、といった片寄った人間にならないために、暇を見つけては外出するようにしている。「ちょっと、人生の大学院に行ってくるよ」と声をかけて出かける。
盤上の勝負が、盤上の世界に閉ざされてしまうと、どうしても近視眼的、利己主義的になり、大局観が固定してしまうことを恐れるからである。盤上の大局観は、自分の生活、周囲、読書や新聞、映画や酒友といった、さまざまな出会いのなかで、いつも新鮮で生き生きしたものでなければならない。