世の中には理論派と実践派があるように感じています。
さて、どっちが良いか?
理論派は、いろいろな角度から勉強していて、話せばとても詳しく説明してくれます。しかし、なぜか実践の場では弱い。結果をだせない傾向があります。
実践派は、説明が下手かもしれません。しかし、なんというか、勝負強さがある。多少の悪さや不都合などものともせず、ひっくり返して自分のものにする勝負強さ(?)がある。
将棋の世界でも、私の知人で「理論派って感じの人」がいて、すごく定跡や手筋に詳しいのに、大会で勝てない人がいました。
品質工学の分野でも、いろいろな文献を読んで詳しいけど仕事に使えない、あるいは部下に使わせることはできないという人がいました。
私はよく、水泳に例えて言うのですが、水泳の本をいっぱい読んで、推進力や筋肉の使い方みたいなことを詳しく知っていても、水の中に放り出されたらきっと泳げない、ですよね?とにもかくにも水に飛び込んで、そこでもがいて実践することで徐々につかめるものがやっぱりあるはずだと。
では、実践派でとにかく飛び込めばいいか、というとそうでもなく、理論の勉強もやはり必要です。前述した将棋の理論派の人は、その後実践(試合)を重ねて四段(県代表を争うクラス)にまで昇段しました。
理論を勉強して、それを実践で試す。その繰り返しが強くなる過程で必要なSTEPだと思います。理論だけではダメ,実践だけではダメ,両方をバランス良く行うことが大切だと思います。
品質工学では、たとえば理論を勉強した人は実験結果を見て再現していないから何かが悪い、やり直し、とすぐにあきらめるところを、実践派は「何か生かす手段がないか」と試行錯誤し、計算を見直すか一部を計測し直すかなどして、実験したものをムダにはしない。「私、失敗しないので」多少の再現性の悪さは力ずくで価値のある情報に変身させる強さがあり、それは実践の場数によってつちかわれる
ものではないかと思います。
品質工学の世界で、田口先生や矢野先生は常に実践の場に身を置いていました。自分で実験したものもありますし、他社の指導で実践データと向き合うことも多かったと思います。2000年初頭に標準SN比やT法など新しい手法が生み出されていますが、それは実践から生まれたものだと思います。
私も、基本は実践派で、結果を出すことを重視しています。H法という推定法を考案しましたが、それは新しい手法を作りたかったわけではなく、目の前に改善できない課題があり、既存の品質工学の手法(MTシステム)では解決できなかった。どうすれば課題をクリアして良い品質を得られるか考えた末に思い至った計算法です。つまり、実践現場で壁があったから、それを乗り越えるために考えたものであり、実践していなければ生まれなかったものです。H法もタグチの手法も、実践があればこそ生まれたものです。だから私は、つねに実践の場に身を置きたいと思っています。