はじめに:
なぜ、この本を紹介するのか
IoTとAIが企業の最先端技術として
注目を浴びてから数年がたち、
いまやAIは「特別なもの」ではなく、
業務や生活のなかで当たり前に
使われるようになりました。
その転換点のきっかけの一つが、
あのニュースでした。
- 囲碁の最強棋士にコンピューターが勝利した
- 将棋の名人にもコンピューターが勝った
「人間の知性の象徴」とされてきた棋士を、
AIが超えた——その衝撃は、
AIを「一部の研究者のもの」から
「みんなの関心事」に変えました。
そして、その流れのなかで出版されたのが、
今回紹介する一冊です。
数式は一切出てこず、概念と考え方だけを理解できるので、
「AIや機械学習をなんとなく知りたい」
「現場でどう活かすかのヒントが欲しい」
という方に、とても読みやすい内容
になっています。
この本で何がわかるか:
AIが「名人」を超えた仕組みのイメージ
本書では、次のようなテーマが、
やさしい言葉で整理されています。
| テーマ | 内容のイメージ |
|---|---|
| 機械学習の弱点と工夫 | 人間の知識をそのまま教え込む方法には限界があり、データから「学ばせる」発想に変わっていったこと |
| 教師あり学習 | プロの手本(データ)を大量にインプットし、「この局面ならこう打つ」というパターンを学習させる方法 |
| 強化学習 | 試行錯誤を重ね、勝ち負けなどの結果から「良い手」を自分で見つけていく方法 |
| 探索と評価 | 無数にある手のなかから候補を絞り込み、それぞれを評価して選ぶ、という考え方 |
これらは、
プログラミングや数学が苦手な人でも、「AIが何をしているか」の全体像をつかむのに十分なレベルで書かれており、後述する「現場の課題を解く新しい解析」を考えるうえでも、また私自身にも、大きなヒントになりました。
企業でAIをどう使うか:
専門業者任せと「簡易AI」の選択
AIの機械学習は、
Pythonなどを用いたプログラミングで実装されることが一般的です。
当時は、各企業でAIを導入するとなれば、専門のプログラム業者に依頼するのが現実的で、コストも時間もかかるイメージが強かったと思います。
一方で、MTシステムという解析の体系があります。
いわば「簡易AI」とも言える位置づけで、
- 深層学習のような高度なことはできないが、計算が比較的容易
- 解析の中身(どの要因が効いているかなど)が見える
- 工程管理や品質改善など、企業の多くの課題には十分な能力がある
という特徴があります。
実際、工程管理システムを販売する会社のなかには、「AI」と「MT」のどちらかを選べる商品を出しているところもあるほどです。
つまり、
- 本当に先端のAI(ディープラーニングなど)が必要な課題 → 専門家・外注
- パターン認識・予測・要因の見える化で足りる課題 → MTシステムで対応
という住み分けを意識すると、予算と効果のバランスを取りやすくなります。
私の経験:
本から得たヒントで生まれた新しい解析法
私は会社の改善テーマに、これまでMTシステムで取り組んできました。
その手法で、大きな成果も出ています。
しかしあるとき、MTシステムの考え方だけではうまくいかない課題にぶつかりました。
よくある流れなら、「次はAIで何とかできないか?」と、外部のAI開発に頼む選択肢もあります。
ただ、それでは納期も費用も大きな負担になりがちです。
そこで、「新しい解析の考え方」を自分で組み立てられないかと、改めて本や論文を読み直しました。
そのときに、まさに『人工知能はどのようにして「名人」を超えたのか?』に書いてあった次のような概念が、とても参考になりました。
- 機械学習の弱点と、それを補う工夫
- 人間の知識をそのまま教え込むことの限界
- 教師あり学習と強化学習の違い
- 探索と評価の役割
これらを、「現場のデータと制約」に当てはめて考えた結果、独自の解析方法を思いつくことができました。
考案した新しい解析方法を実際の課題に適用したところ、MTシステムだけでは解決できなかったテーマを、見事に改善することができました。
- 専門業者にAI開発を外注しなくてもよかった
- 納期とコストを抑えつつ、社内のデータと既存の知識を活かせた
- 「なぜその結論になったか」を説明しやすく、現場にも伝わりやすかった
この経験から言えるのは、
「AIの本」は、必ずしもAIそのものを実装する人だけのものではない
ということです。
- 機械学習やAIの考え方を理解する
- その考え方を、MTシステムや既存の解析と組み合わせる
- その結果、自分たちの課題に合った「新しいやり方」を設計できる
こうした思考の土台として、この本はとてもわかりやすい一冊だと感じています。
こんな人に読んでほしい
- AI・機械学習の概要を、数式なしでイメージしたい方
- MTシステムや品質工学をやっていて、「AIとどう違うか」を整理したい方
- 現場の課題を、外注に頼らず、データと解析で解決したい方
- 「教師あり学習」「強化学習」「探索と評価」といった言葉を、実務に結びつけて理解したい方
まとめ
- AIが囲碁・将棋の「名人」を超えたニュースは、AIを身近な話題にした転換点の一つ。
- 『人工知能はどのようにして「名人」を超えたのか?』は、数式なしで機械学習の考え方を理解できる、読みやすい本。
- 企業ではAI(外注・専門家)とMTシステム(簡易AI)の住み分けを意識すると、コストと効果のバランスが取りやすい。
- 本書の概念(教師あり学習・強化学習・探索と評価など)は、現場の課題に合わせた独自の解析方法を考えるうえでも役に立つ。
- 私自身、MTでは解けなかった課題を、この本の考え方をヒントにした新しい解析法で改善できた。
AIや機械学習の全体像をざっくりつかみたいとき、そしてその考え方を実務の改善に活かしたいときに、手に取ってみる価値のある一冊だと思います。