ある勝っているトレーダーさんが推奨していたので、読んでみました。トレーダーとしての心構えという面で、とても参考になる内容だったので、要点を整理してみました。著者がトレードをしている人なので、一般的な会社でも参考になるようにと記述しながらも、投資家視点の見方、事例が多く盛り込まれており、思い当たるところ多々有りで、要点といいながら長々と拾い上げてしまいました。
第1章では、ランダム性ということで、予測できないことが多いことを記述されていますが、正規分布を中心に確率を説明しているところが納得できず、ここは興味がもてませんでした。なぜなら、チャートの動きは正規分布ではないと思っているからです。そう思いながら読み進めると、「べき分布」に近似する、と修正しています。このように、分布を仮定して当てはめるという統計的品質管理みたいなやり方も私はなじめずいて、心にヒットする部分がなかったので抽出してません。第2章のフィードバックという言葉、品質工学ではフィードバック制御という手法があり、目標値に調整するという使い方をするのですが、これと大きく異なるため、違和感がありました。この本でいうフィードバックとは、雪だるま式に影響が増大するといった流れを示しています。「不幸が不幸を呼ぶ」みたいな。正のスパイラルとか負のスパイラルみたいに表現してほしいところですが、不確実に繋がって進んでしまうので(自分で制御して展開するものではないので)そういう表現になったのかと思います。
という個人的な理由で第1章と第2章からは抽出していませんが、話しの前提となる部分なので、興味のある方は原本を読まれるとよいと思います。
第1章 ランダム性
第2章 フィードバック
第3章 バブル
バブルの発生そのものを予測することは極めて難しい。同じような要件がそろっていても、バブルが起きることもあれば、起きないこともある。さらに、仮に今がバブルだと断定できたとしても、それがいつ終わるのかを予測することは難しい。
不確かなことを断定的に判断せず、流れてくる音楽に合わせて踊りながら、一方で、冷静さと合理的な精神をかたときも失わない。それだけが、バブルを生き残るやり方なのだ。
偶然が果たしている役割の大きさを理解しないままに成功の連鎖を駆け上がると、「全ては自分の才能と努力のおかげだ」という意識に囚われやすくなってしまう。こうした意識が過剰になると深刻な副作用を生む。成功に至った今までの自分のやり方、考え方を絶対だと思ってしまうのである。良いことが続く過程で成功を収め、自信に凝り固まった人間は、そのプロセスが反転しても今までのやり方に固執して、やがて起きる逆回転のフィードバックの中で致命的な失敗を犯すことになる。つまり、「良いことが良いことを生む」メカニズムは、人の心理に将来の大失敗の種を植え付けるものでもあるのだ。
第4章 人間の心理バイアス
◆人の心理的反応
**皆が同じ方向に間違える**
周囲がみな同じ方向に間違え、自分もまた同じ方向に間違えているとしたら、その間違いに気づくことはとても難しい。
**過剰な因果関係づけ**
人はモノゴトを単純明快な因果関係で捉えようとする非常に強いバイアスを持っている。
過剰な因果関係づけは、ビジネスの世界では特に強くみられる。問題解決を探るにはとても役立つから。だから、仕事ができる人ほど、複雑なデキゴトを簡単な因果関係に置き換えることが得意であることが多い。だが、この過剰な因果関係づけによって、現実の世界の複雑性は無視され、不確実なデキゴトに対しても因果関係を理解することで対応が可能だ、という錯覚を生んでしまう。それが、不確実性を正しく理解して適切に対処するうえで、大きな障害となる。
**自己奉仕バイアス**
人は、成功の要因を自分に求めたがる。その成功が他人や偶然のおかげだとは思わない。一方で、失敗については自分以外にその要因を求めたがる。
自己奉仕バイアスを持つ人間は、不確実性による成功に対しても自分の貢献度を過大に評価し、その特殊な局面でたまたまうまくいった自分のやり方を絶対視してしまう。失敗の連鎖に見舞われたときは「今はたまたま運が悪いだけだ」と考えるだけで、自分のやり方を変えようとは思わず失敗の連鎖から抜けられない。
こうした傾向は、過去に大きな成功体験を持ち、周囲からも一目置かれているような人ほど陥りやすい罠だといえる。
**自己正当化の要求**
自己正当化とは、一度自分が下した判断や、とった行動に対して、それを正当化するために自分の中でつじつま合わせをしようとすることである。この要求は非常に強い。
自分を否定する(と感じられる)異論に対して、人は異常なほどに強い拒否反応を示す。また、自分に都合の良い情報は目ざとく見つけてきて自己正当化に利用しようとする。自分に都合の悪い情報は、無視したり、些細な点をあげつらって否定しようとする。
人はいったん何かを判断したり、行動したりすると、「そうしていなかった場合には決して抱くことがなかったはずの理屈」に囚われしまう。
【例】
その株を買ったときには、「ちょっと上がりそうだな」というくらいの軽い気持ちで買っただけなのに、株価が下がって自己正当化のメカニズムが働き始めると「この株は、本当は良い株なのだ」「今は下がっていても将来必ず大化けするに違いない」などという新しい理屈を後付けでどんどん付加していってしまうのだ。その理屈は、その株を買っていなかったら決してそのようには思わなかったはずのものである。この後付けの理屈によって、下がり続ける株を手放すことができずに、ずるずると損失が拡大していくはめになる。
**同調**
同調が強く働くと、集団内の意見がある一定の方向に流されて、誰も望まない極端な結論に導かれてしまう。
・スローシステム:合理的な結論を導く思考システム
・ファストシステム:パターン化された直感的な反応で瞬間的判断を下す思考システム
◆人はなぜ不確実性にうまく対処できないのか
**不確実性の過小評価**
前もって想定していないデキゴトが起きることで、人は突然窮地に立たされる。このプレッシャーのかかる状況が、さらにファストシステムへの依存を生み、偏った意思決定をしてしまう原因となる。人々による不確実性の過小評価自体が、より大きな不確実性をもたらす要因となる。
**予測への過度の依存
予測ができない不確実性の部分に対しても予測で対処しようと考えることによって、かえって不確実性にうまく対処できなくなってしまう。
**気合いで乗り切ろうとする**
世の中には、気合いを入れて努力をすることで道が切り開かれることも多い。だが、それは現実を正しく見据えて正しい方向に努力を積み重ねる場合の話だ。予想外の環境変化によって、今までのやり方が通用しない事態に遭遇しているときに、やり方をあらためずに気合だけで乗り切ろうとしてもその努力は報われない。ネガティブなことをあえて想定しておくことで、破滅を避けることができる場合もある。
◎失敗のパターン1:成功体験と自信過剰
過去に成功した者ほど、自分たちのやり方を過信し、新しい環境に適応するのが遅れる。
「英雄を気取ってはいけない。自己中心的な考え方をしてはいけない。常に自分自身とその能力を疑ってみる。自分はうまいんだなどと思ってはいけない。そう思った瞬間、破滅が待っている」(「マーケットの魔術師」より)
成功を過大視しない。自分を過信しない。そして、予想外のことが起きることを想定し、予測が外れても破滅的な状況に陥らないように常に注意を怠らない。そのかわり、失敗すること自体は恐れずにトライを繰り返していく。
◎失敗のパターン2:サンクコスト(埋没費用)と自己正当化
多くの場合、その計画の将来の見通しではなく、過去に投じた費用の大きさで計画の存続が左右されてしまう。本来は、純粋に計画を続行することで発生する将来の「追加費用」と「便益」で判定すべきである。計画にこだわって傷口を広げてしまう背景には、自己正当化も大きな役割を果たしている。
株の例では、評価損失を現実の損失と考えることが大切。
◎失敗のパターン3:希望的観測と神頼み
人は苦しい状況になればなるほど、リスクに鈍感になり、希望的観測にすがるようになる。だが、そうした希望的観測は、事態の解決に何の役にも立たないばかりか、抜本的な対策を遅らせて、より大きな機器を招き寄せることにしかつながらない。
もっとも、危機が深刻化する前に抜本的な対策を打つというのは、実際にはとても難しい。抜本的な対策には痛みが伴うため、「今はまだそこまでやる必要はない」という意見が必ず出てくるからだ。
だが、誰もが事態の深刻さを認識できるようになったときには、すでに打つ手がなくなってしまっている可能性が高い。
◎失敗のパターン4:異論の排除と意見の画一化
組織における異論の排除は、不確実性に起因する予想外のデキゴトへの対処を誤らせる大きな要因となる。平時から悪いデキゴトの連鎖に対する警戒を怠らず、さまざまな選択肢をあらかじめ頭に入れておくことが大切。どんなに魅力的に見える議案でも、さまざまな角度から検討すれば必ず反対意見が生まれてくるはずである。反対意見が付されていないということは、そうした多様な観点からの検討が十分に行われていない証だ。
第5章 人生を長期的成功へと導く思考法
**予想は外れて当たり前**
多くの人が納得しやすい、つまりコンセンサスが得やすい予測はとりわけ外れやすい。モノゴトはコンセンサスとは違う方向にこそ大きく動く性質を持っている。
投資家は大きな相場変動を予測できなかったことを毎回悔やむ。長年にわたって成功を収めてきた投資家たちだって、実際にはたいして予測が的中しているわけではない。予測できないことに予測することで対処しようという考え方がそもそも間違っていると考えるべき。
もちろん、予測をするなという意味ではない。投資家は、次の相場変動のイメージを思い描くことで初めて投資行動に移ることができる。だが、不確実な未来における予測は、単なる仮説にしかすぎないということをまず理解する必要がある。
**勝率に惑わされない**
不確実性を前提とするとき、総得失点差と勝率は、実は直線的に結びつかない。むしろ、勝率を引き上げることで、長期的な総得失点差が犠牲になってしまうこともある。
◆短期的な結果にふりまわされない
**正しいやり方の効果は長期的にしか現れない**
不確実性のおかげで、短期的には、間違ったやり方でも成功することがあり、また正しいやり方でもうまくいかないことがある。原因と結果が直接的に結びつかない不確実性のもとでは、正しいやり方の効果は長期的にしか現れない。
長期にわたって成功を持続できたかどうかという「時間のテスト」を経ていないような成功を、そもそも成功と呼ぶことが正しいのだろうか。
**小さな失敗を許容する**
大きな失敗を避けるためには、小さな失敗を許容しなくてはならない。
多くの投資のプロは、ひとつの投資判断がうまくいかなかったならば、大きな損失を被らないように損失を早めに確定させて、傷口を広げないようにすることが投資の鉄則である。しかし、損失を早期に確定させることを心がけると、実際には勝率が否応なしに下がってしまう。したがって、1回1回の勝ち負けにこだわる人は、この鉄則をなかなか守ることができない。
勝率へのこだわりを捨てて、数多くの小さな失敗を許容することによって、致命傷を負うことなく、やがて大きなチャンスが巡ってくるのを待つことができる。大きなチャンスは、いつ、どのくらいの大きさでもたらされるかはわからない。だが、その予期せぬ大きなチャンスを存分に活かせるかどうかが、次の関門となる。
※数多くのものを試してうまくいくものを伸ばすという超優良企業のやり方は、まさにこれと同じことなのである。
このように不確実性の存在を前提とし、長期的な成功を目標にするならば、単に目先の成功を目指すのとは戦略の立て方がおのずと異なってくる。世界が不確実性に満ちていることを知る重要性は、そこにこそある。
**不確実性への対処に終わりはない**
不確実性は、不確実なものであるがゆえに、完全に克服することなどできない。それでも、いたずらに忌避したり、軽視したりすれば、かえって牙をむいて襲いかかってくる。不確実性とは、何とかうまく付き合っていくしかないのだ。そして、それができたときにはじめて、長期的な成功への道が開けるのである。